[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
1 2 3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15
16 17 18

・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

分かたれた家系

泉谷家と、清水家、二つに分かれた家系。
泉谷は神事などの『光』の行事を、清水家は暗殺など『闇』の仕事をそれぞれの生業としてきた。『光』と、その陰に潜み光を守る『闇』。二つの家系は完璧に別のものとなっていた。

泉谷家の神社を継ぐ者にのみ、影の家系清水家の存在が明らかにされる。

泉谷家の末裔 泉谷 渓  と 清水家の末裔 清水 潤
同じであって違う血筋の、二人の出会い。

---------------------------------
「はじめまして、十代目泉谷家当主様。」
清水潤に会ったのは、12歳のころだった。
居並ぶ親族たち、ろうそくの灯が揺らめく怪しげな神社の間。
十代にもおよぶ長い歴史を持つ神社の、格式ばった儀式。
潤は渓の祖父が彼の身の上を説明している間、ずっと畳に額を押し当てていた。
「渓、成人した暁に教えておきます。これが清水家のものです。
泉谷家の歴史を陰から支え、そして影のまま生きていくものです。」
「清水 潤と申します。以後お見知り置きを。」
顔をあげた彼に、見覚えがあった。
「うむ。」
儀式的に答えたが、本当は飛びつきたいほどなつかしかった。

渓が子供のころ。
特に体が弱いわけではなかったが、極度の潔癖症のため外に出ることがほとんどなかった。
家の中でビー玉を転がしたり、本を読んだり、庭の植物の成長を見守るのが日常だった。
「いやです、学校に通わせるなんて!渓まで失ったら、私...」
奥の部屋から母の声が聞こえてきた。
物心ついてしばらく、言われ続けてきたこと。
外の世界は危ない。
汚いものは触ってはいけない。
ほとんど記憶もない遠い昔、少しの間だけうちにいた小さな女の子を思い出す。
彼女も外の世界に遊びに行って、いつの間にかいなくなってしまった。
母によると「汚いものに触ったから」で、
それを聞いて以来渓は汚いものに触れなくなった。
なんだかんだで、渓は学校に通うことになった。
正直外の世界は怖かったし、人とかかわるのも苦手だったが、
祖父の一声で学校に行くことに決まった。
入学式の途中で、気持ちが悪くなって保健室に行った。
白いカーテンに白いシーツが、なんとも気分を落ち着かせる。
ふと、ベッドのわきにだれかが立っていることに気がついた。
「...誰ですか?」
背が高い、上級生だ。
「君こそ誰だい。せっかくここで寝ようと思ってやってきたのに。」
「...サボる気ですか。いけないんですよ。」
「チビのくせに、口うるさいね。」
彼は怒るわけでもなく、笑って言った。
これが泉谷渓と清水潤の、本当の最初の出会い。

以来潤は、なんだかんだいろいろ渓の面倒を見てくれた。
学校の校庭で走る潤の姿を見て、走るのが怖くなくなった。
ある時、渓が潤に尋ねる。
「潤は、僕と同じ髪の色ですね。」
「うん。まあね。」
「水色…珍しいってよく言われません?」
「...何、そのことで何か言われてんの?」
「そんなことは...」
ないわけではなかった。
悪意があるわけではなかったけど、珍しいとか、変わってるとか言われた。
「渓。」
潤が、渓の肩にそっと触れる。
「確かに君はちょっと変わってるし、潔癖症だけどね。
気にしないでいいよ。小市民は細かいことを気にするからね。それに―――」
肩に置いた手に、力がこもった。
「俺が君を守ってあげるよ。言っとくけどこれは、俺個人の勝手だから。
―――...なんて関係ない。」
最後のところは聞き取れなかったけど、彼が渓を守るというのが本気なのがわかった。
潤は時々凄くいい笑顔をする。
その時の潤は、とても優しい笑顔を浮かべていた。

潤が卒業して、潤に会うことはもうないと思っていた。
その潤が、今目の前にいる。
「潤!!」
儀式が終わって、誰もいない鳥居回廊の近くで彼の名を呼ぶ。
潤が、やわらかい笑顔で渓を迎える。
「どうしたんですか、泉谷様。」
「そんなの、やめてください。前みたいに渓、と呼んでください!」
「まさかそんなこと―――」
「できる人でしょう?あなたは。」
潤のやわらかい笑顔が、ニンマリ顔に変わる。
「わかってるじゃないか、渓。」
「ばれなけりゃいいとか言って、保健室でしょっちゅうサボってた人ですからね。」
顔を見合わせて、くっく、と楽しそうに笑う。
「言っとくけど―――九代目の前ではちゃんと呼ぶから。」
「ええ。じい様はそういうことうるさいですからね。」
思わず潤に手を差し伸べる。
「触らないように。俺は、お前の家系では《穢れ》なんだから。」
「《穢れ》?潤が?」
「うん。触ると、死ぬよ。」
「やめてください、もう子供じゃないんだから。」
潤の手を、渓の手が握る。
相変わらず、大きな手だった。
「まあ、守ってあげるよ。仕方ないよね、これも仕事だから。」
「また、意地悪な人ですね。」
あの時潤が言おうとしたこと。
守ってあげるよ。血筋なんか関係ない。
彼の素直な言葉が聞けるのは、めったにない。
「しっかり守ってくださいよ。仕事なんですから。」
「君も生意気なチビなのはかわらないね。」
彼の笑った顔。
いつまでも、そばにいてほしいと思う。

『Writted by ピコリ』