相対正義論12
前兆
「人間の血液量をご存知ですか?成人男性なら、約5リットルはある。」
清水が言うのは、連続首なし事件の被害者から血液が抜き取られていたという点だ。
「ヘマトフィリア、俗に言う吸血鬼のように血液を嗜好する精神的な疾患がありますが、たとえ他者の血液を嗜好する癖があったとして、一度に5リットルもの血液を飲み干すことが人間に可能でしょうか?」
「となるとやっぱり鬼か。」
「その可能性が大きいということです。切除された部位は見つかっていないわけですから、注射器のようなもので事前に血液を抜き去っていたということもあり得ますし。」
自分で言いながらも、清水は思う。矛盾だらけだ。歯形を残しておきながら首を狩る行為も、首だけを持ち去った行為も。
「俺自身、遺体を調べたわけじゃないので。現場からは怨気を検出することはできませんでしたが…歯型から直接調べれば、もしかしたら。」
*
「千恵美は?」
警察一課、異犯の書類だらけのオフィスで声を出したのは成田だ。
「霧咲さんなら、遺体の歯型から検出された怨気を追跡してますよぉ。」
答えたのは焔村。茶色いロングヘアの、ふんわりした印象の女性だ。
「警察のデータベースにも、匂色の文献にも無い鬼ってことで、足で探しに行きましたぁ。殺害されてたのが同じ不良グループの少年だってわかったから、少年課のモザイクさんを引っ張って現場巡りに行ってるはずですよぉ。」
*
「今日のパトロールは城島さんと一緒っすかぁ!」
快活な笑い声を出したのは鈴木だ。
「本当はモザイクと一緒だったはずなんだがな、一課のおっかない女に連れてかれたから、今日はお前とパトロールだ。」
不機嫌な顔でパトカーを運転するのは城島。警官は2人一組でパトロールする。
『あー、さっさと終わらせて光月に会いたいなぁ』
「うおー城島さん!空見てくださいよ!すっげー月が光ってるっす!」
「び、びっくりしたお前はエスパーか!」
「何がっす?そんなことより城島さん、ほらアレ見てくださいよ」
日が傾き、居並ぶビル群に飲み込まれていく。
その反対がわから、月齢が満ちきった月が顔をのぞかせる。
「今日は満月っすね!」
5月17日。夜が、始まる。
『Writted by ピコリ』