[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

相対正義論5

警視庁刑事部捜査一課特異犯捜査第二係

「今月で3件目やね。依然首は見つかっとらん。なァ、これ人間の起こした事件なんと違う?」
ショートカットの黒髪の女性が、紫色の鋭い視線でファイルに目を通す。彼女が言うのは、5月の初めから現在まで2週間近くにわたる連続異常殺人事件のことである。
高架下で起こった首の持ち去り事件を発端として、似たような事件がこれで3件目にもなっている。被害者はいずれも身元不明。体中の血液を失い、かつ首のない状態で発見されている。いずれも身元を特定できる衣服などは身に着けておらず、被害者の年齢が10代から20代程度の若者であるということ以外重要なことはわかっていない。

「なんで犯人が人間だと思うん、理由を言ってみぃ霧咲。」
「だって、食人系の鬼やったらこんな半端な【食い残し】はせえへんやろ。吸血系の鬼やったら、首を持っていく意味がわからん。こういう中途半端なことするんは、人間の異常者なんじゃないん?」

警視庁刑事部捜査一課特異犯捜査班、通称【異犯】は人間以外の凶悪事件、つまり【鬼】や【魔物】という人間ではない者たちが起こした犯罪を調査する部署である。鬼という存在自体が一般で認知されていないものであるため、警視庁の中でも異犯の真実の仕事を知る者はほとんどいない。
コールドケースとされている事件も、異犯においては解決している場合があるが、これは公表されない。それは鬼というものの存在を公認する行為が市民に与える影響が大きいと考えた内閣府の考えがもとである。
よって異犯は、公には一課内において特に異常性の高い事件に対応する特殊部隊的役割だと認識されている。

「人間の起こした事件はうちの管轄外や。」
「千恵美、お前めんどくさいだけやろ。」
上司と思しき男性が、ふと表情を緩めた。
赤い瞳は垂れ目で、眼鏡をかけていてもやさしい目だとわかる。ほとんど白に近いような薄い茶色の髪が、この人物が柔和な人物であるという印象を強めている。

「せやかて成田さん、警視庁にやっとこれたかと思えば全然見当違いの事件ばかりなんやもん。」
霧咲千恵美は普段の印象は厳しいが、成田の前では部下然とした態度になる。それだけ成田を信頼している証でもある。
「まだこっちには来たばかりなんやから、千恵美の探しものだってそうそう見つかるもんでもあらへん。ま、気長に、気長にな。」
「成田さんは気楽でええわ。」
決してバカにするようでなく、親しみを込めて。

「あ、そや、この事件のガイ者のことを、少年課の城島って人が聞きに来たわ。情報課のデータベースで調べるより詳しく聞きたいとかやったんやけど、あの人鬼のこととか知らへんようやったからガイ者の特徴以外は適当にぼかして伝えといたで。」
「りょーかい。」

今回の事件に使われたと思われる凶器は【歯】
首を切断したとみられるのは普通の刃物、おそらくは斧のようなものではあるが、直接の死因となったのは首筋に残された【歯型】であり、頸動脈を食い破られ、そこから大量の血液を失ったことによる失血であると推測されている。
死体に通常現れる血液の沈殿である死斑が見られず、死体はまるで人形のように現場に転がっていた。切断は死後に行われたものであると司法解剖の結果明らかになっている。

「血痕は現場に残されてない、どこか別のところで殺害して、いらなくなった部分を現場に捨てたんやろか。鬼の仕業だとしても矛盾だらけや。わざわざこんなところに捨てるよりは山奥とかに捨てたほうが見つかりづらいし、首を切るなら歯型部分も切り取ったほうが普通の猟奇事件に見せかけられたはずや。単に用心のために首だけ隠したとしても、なんでこないな目立つ所に体を捨てなあかんのやろ。まるで---」
「見せつけてるみたいやな。」
「せや。」
大抵の鬼は人間に見つかるのを嫌って食べつくす。わざわざ目立ちたがる鬼など、聞いたことが無い。
「こういうのは、ナルシストな人間の異常者がよくやる手法や。」

『Writted by ピコリ』