[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

Merry Christmas

「あと何買うの」
「鶏本体とワイン!」
「ワインは先週頼んだのが今日届くはずだけど」
「じゃ、鶏だけ」
夕方、年末商戦真っ只中の下町の商店街を同居人と俺は歩いていた。
買い物なんて面倒なだけだが、本格的なクリスマスディナーを作りたい!と遼ちゃんが力説していたので、じゃあ荷物持ちくらいはやってやるか、てな気持ちになった。そのまま何も考えずに『いつもお世話になっている』という商店街へ連れてこられたわけだが。
異様なほどの人ごみである。何だこれ。人の頭しか見えない。そんな中、同居人はあちこちで声をかけられていた。
「お、遼ちゃん待ってたよ!」
「あ、ちょっと待ってー。『いとう』さん、鶏いいの入ってる?」
「あるよ!鶏もも骨付きでいいのかい?」
「今年は鶏まるごと焼いてみようかって思ってるんだけど」
「お、でっかいオーブンでも買ったのかい」
「そうなんだよ!」
…買ったのは俺だ。正確には買ったわけじゃなくて物件についてきてたんだがな。
しかしそんなことを言うわけにもいかないので、黙って買い物の様を背中から眺める。
「何かむっちゃでかくねえ…?」
「ちゃんと農場から仕入れたやつだよ。半年前から頼まれてたんだけど、キャンセルがはいっちまってな。訳あり品で1割引きでどうだい」
「買った!」
何かすっごく生き生きしてんなあ… 「よし、買い物終わり! せんせ持って!!」
「うっす」
既に両手には買い物袋が二つずつ。使い捨てじゃない、エコバッグだ。表にはどうやらアニメのキャラクターらしい卵型の物体がプリントしてある。
「しっかし、こんなに買ってどうするの…」
「せんせなら食うだろ」
「食うよ…3日くらいかけていいなら」
「あ、これうちの分もあるから」
「?」
「母さん料理壊滅的だからな。半分くらいとーるに持ってかせる」
…ああ。
実は、遼と俺は同居二日目である。
11月前半に俺が遼に告白し、つい2週間ほど前に遼がOKしてくれて、学校が冬休みを迎えるにあたって一緒に住むことになった。
…その経緯にあたっていろいろあったわけで。
遼は真面目だ。本当に真面目だ。真面目だから俺と付き合うことになったとき、両親にそれを報告して、結果、それまで住んでいた実家を出ることになってしまった。
俺のワガママを聞いてもらった手前もあるから、それについて悪かった、とは言えないけれど。

---

「乾杯」
24日の夕方。
「また、随分と作ったなあ」
テーブルの上には既に半分に切られたローストチキンと牛のたたき、マッシュポテト、シーザーサラダ、クラッカーにサーモン、いくら、レバーペースト。
「楽しかったー!」
…そうか。まあ俺も出来る範囲で手伝ったりしたわけだが。じゃがいもの皮をむいたり、じゃがいもの皮をむいたり、じゃがいもの皮をむいたり。
「俺んち、オーブントースターしかなくってさあ。こんな大物焼けなかったんだよなー」
ワインを舐めながら、遼はにこにこしている。
「あまり酔うなよ」
「えークリスマスなのにー」
「クリスマスに面倒見させる気か」
すねた顔でこっちを睨む。…可愛い。
「早く力作食おう」
すっとぼけて、チキンを切り分ける。きれいな狐色。

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「だーかーらー。どーしてせんせはよわないんだおー」
「どーしてと言われてもね」
…で、結局こうなったか。既に呂律がまわってねえぞ。
「せんせー結構たべたじゃんー」
「遼ちゃんの作るご飯は絶品ですから」
正直に感想を言う。遼ちゃんのつくったディナーは三分の二ほどなくなっていた。レストランのような完璧な味じゃないけど、素朴に旨い。
「えっへへー」
顔を真赤にして、にへらと笑っている。…ええい、可愛いな。
「すごく頑張ったな」
頭に掌を載せて、髪の毛を軽く混ぜる。
「ねー、せんせー。楽しかった?」
「うん」
「よかったー。せんせ、人と一緒に過ごすクリスマスは初めてー、ていってたからあ」
ぽふっと、胸にもたれかかってくる。
「クリスマスは楽しいんだよ。おうちでごちそう食べて、プレゼント交換して、みんなで笑うの。せんせ、それ知らないんだ、て思ったら、俺がんばんなきゃって」
そういえばそんなことを言ったか。一ヶ月半前、気の早い街がクリスマスの曲を流し出すころ。
このごちそうは、俺のためか。
語る口調は煮溶けた餅みたいなのに、熱と重みとともに身体越しに伝わる。
「一人は寂しいよ。せんせは何でもないように言うけど、俺は怖いよ。怖くなっちゃった」
そっと、体重を預けきった身体を抱く。
「せんせ、一人じゃないよ。俺がいるから。俺も一人じゃない。せんせがいるから。そうでしょ?」
…ああ。
「ずっと一緒だよ」
腕に力を籠めて、背中を撫ぜる。
「…愛してる」
返事は寝息だった。
意識が墜ちたか。遼は酒に弱いから、ちょっと多めに飲むだけで酔っ払う。
…明日起きたら、覚えてないんだろうなあ。
けれど。俺が全部覚えてる。だから。

「Merry Christmas」

祝福を。お前と、これから一緒に過ごす時間へ。

『Writted by るりのん』