[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

相対正義論2

藤城事務所

「お、殺人事件か。ふーん、最近続くな。」
殺人という無粋な話題を言うのにふさわしくない、間の抜けた声。
黒髪の青年が新聞を読みながら、大あくびをする。青年というには少し遅いか、見た目は30代前半程度、乱雑に伸ばした黒髪は左側だけ耳にかけ、もう片方は目にかかるかかからないかの長さ。髪のすぐ下では黒ぶち眼鏡に縁取られた、眠そうな、だけど強い力を持った青い目が輝く。顎には無精ひげと呼ぶには長い、だけど伸ばしているわけでもない、それこそ無造作と呼ぶにふさわしいヒゲが生えている。

「の割に、うちの事務所への依頼は増えないなぁ。」
「藤城さん、不謹慎ですよ。」
部屋の奥、ドアに近いデスクから、鋭いツッコミが入る。藤城の座っているデスクを含めて机は5つ、それほど広い事務所ではない。突っ込みを入れた女性の、怒った表情がはっきりと見える。ひっつめ髪と呼ぶのがふさわしいだろうきっちりとまとめられた黒髪に、燐と光る黒い瞳。赤い縁の眼鏡がわずかな彩りを添える以外、スーツも靴もすべて黒に統一されている。

「ったって、今月も全然依頼は無いし…これ以上閑古鳥が鳴いたら、お前の給料だって危ないんだぞみゃーこ。」
みゃーこと呼ばれた女性と藤城以外、事務所の中に人はいない。3つあるデスクのうち1つはパソコンが一台置かれているだけで、特に誰の机といった特徴もない。おそらくは臨時の際使用するものなのだろう。
「だったら、学校の臨時教師の仕事増やすとか、鼻血吹いてでも仕事探しに行けばいいじゃないですかぁ!私はこのあたりで起きた鬼による事件の統計とか、今月の食費とか光熱費とか、国に払う税金とか経費とかの計算で忙しいんですう!!いくら藤城さんが夜の時間帯の担当だからって、所長なんですからここにいる間は仕事してくださあああああい!!」
みゃーこの絶叫とともに、時計がちょうど正午を告げる。

事務所の扉が開き、青い髪の青年が顔をのぞかせた。
「また叫んでたんですかみゃーこさん。」
前髪だけを伸ばした、いまどきの若者らしい髪型に、湖のように落ちつき払った緑の瞳、ラフに着ながしてはいるが決してセンスは悪くない服装。年齢は大学生くらい。手にはコンビニ袋を持っている。

「ちょっとお清水君!まるで私が理由もなく叫ぶみたいに言わないでください!!」
みゃーこの絶叫も気にせず、清水が藤城にコンビニ袋を差し出す。
「これ、差し入れ。どーせまた何も食べてないんでしょう?」
「おお、悪いな清水!じゃ、12時になったし休憩!お昼ごはんにするか!」
コンビニ袋の中には、おにぎりとパン、飲み物と弁当がそれぞれ3っつ入っていた。
「私の分もあるんですか?!」
「ええ。みゃーこさんダイエットとか言って少ししか食べないでしょう。それで昨日倒れたじゃないですか。」
そう、みゃーこは空腹と絶叫により倒れたのであった。
「しっかり食べて下さいよ。別に俺はみゃーこさんが毬のように丸かろうが魅力的だと思うけど、低血糖で倒れられるのは迷惑ですから。」

魅力的、と迷惑二つの単語でみゃーこが怒るか照れるか行動をとりあぐねてる間に、藤城が話を進める。
「なあ清水、なんか依頼になりそうな話ころがってないか?」
「そういうことだと思って、少しばかり鬼とかかわりのありそうな事件を集めてきましたよ。」
入口を入ってすぐにある、来客用の机に持っていたトートバックを置く。向かい合わせいなったソファーの対面に座り、資料をあさる。ハムサンドの包みを破りながら、清水が不敵に笑う。
「まず、不良少年の怪死事件。10日前でしたか、地下駐車場で肉団子状態にされていたアレですが犯人はいまだ不明。あとは3日前、高架下で起こった首の持ち去り事件、被害者の血液はすべて抜きとられていた異常な事件です。いずれも人間業では考えられませんね。」

大学ノートと呼ぶにふさわしい簡素なつくりのノートをめくりながら、淡々と清水は読みあげる。
「それとチンピラばかりが狙われる連続殺人事件、執拗に似たタイプの人種を狙う事件は鬼の関与が疑われますが、それくらいかな。確実に鬼のものと言える事件は、すでに匂色機関が乗り出したようです。」
グロテスクな内容の話をしながら、平然とハムサンドを食べる。
「あと、高校生の相次ぐ失踪。今のところめぼしい事件はこのくらいでしょうか。」
子供、特に幼児期や思春期の子供は鬼にとって素晴らしい獲物だ。すべて跡形もなく食いつくし、警察では失踪のまま事件が片付けられることも珍しくない。もちろん鬼という存在を知っている者にとっては、それは単なる失踪ではないのだが。

「鬼に関係しそうなのはこれくらいですね。魔物は今、竜一さんが調べていると思います。」
「おおわかった、ありがとうな。」
どういたしまして、という風情で清水が薄くほほ笑む。
「とりあえず、一番最初の---肉団子?それが確実に鬼の仕業のようだな。そっから調べてくか。」
「合点承知の助」
「…清水お前、ときどきやたら古い言葉使うよな。」
そうですか、と問うた清水についでに言う。
「あと、殺人事件の話するのにハムサンドといくらおにぎり、トマトジュースとミートソースパスタ弁当はやめてくれないか?」
「みゃーこさんのダイエットに役立つかと。」
なるほど、みゃーこは弁当に少し手をつけただけでさっぱり食事が進んでいない。

「清水さんの鬼いいいいぃいいいい!!」
みゃーこの絶叫は、狭い藤城事務所をこだまし、開け放たれた窓から青い空へと飛んで行った。

『Writted by ピコリ』