相対正義論17
ビルの戦い3
ぐきっ、ぐき。
手の骨が、悲鳴を上げる音が聞こえる。そんなことすらわからない位に、意識がかすむ。
ぐびっ、ぐび。
首もとから、生命が奪われていく音。
ここで…
終わるわけには……
ばきっ
突如、視界から真木が消えた。
「なんや、あいつが言った相手って、これか?」
黒い髪、赤紫の眼。歪んだ笑顔の青年が、月をバックに立っていた。蹴りをかましたのだろう、片足で立っている。
「ふざけよって。ロキのやつ、こんなつまらないモノで俺が満足すると思ったんやろか?」
続く素早い中段蹴り。倒れた真木を、地面を踏み固めるかのようにためらいなく何度も踏みつける。
ばきばきばき、と、骨の砕ける音がする。人の形だったものがかさかさに乾き、まるで氷の塊を踏み砕くかのように、ぱきぱきぱき、と砕けてく。
「何や、こんなんでも一応いっちょ前の鬼みたいな消え方するんやな。」
嘲りを浴びながら、真木だったものは完全に砕け、その欠片さえも砕け散って粒子となり、風に舞い消えた。気配的に、青年は完全な鬼ではない、鬼人だろう。
「生まれ変わって出直せ、アホ。」
吐き捨てる。そこに転がっている死にかけの渓のことなど、どうでもいいようだ。
遠くから、サイレンの音が聞こえる。警察のサイレンの音、続いて救急車の音。
「なんや、千恵美やん。異犯の連中もいっぱいおるし…ちっ、今回は分が悪いか。」
青年が、憎々しげに自分の指をかむ。
青年はそのまま高低差のある隣のビルまで飛び移り、渓の視界から消えた。
ぼんやりとした意識で、渓はその様子を見ていた。
結果的に、鬼人に助けられたことになった。真木を倒すのを阻害したのは、人間である羽取だった。自分を殺そうとしたのは、なりそこないの鬼にされた真木だった。
おのれの無力が悔しいのか。よくわからない熱い感情が胸の中をかけ巡った。
頬を伝う暖かさが涙なのか、血液なのか、分からなかった。
『Writted by ピコリ』