[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

相対正義論16

ビルの戦い2

ビルの階段を駆け上る。
足は、わずかに渓のほうが早いようだ。渓に続き真木が追いかけてくる。
階段は四角形のらせん状に続き、業務時間を終えた事務所の看板が暗いビルの中に並ぶ。ビルは普通の事務所に使われるようなもので、高さは5階建て程度だろう。清めの印を結びながら階段を上るが、あまり術を練る時間はなさそうだ。
呪文を詠唱しながら、先ほどの羽取の言葉を思い出す。
『真木さんを生き返らせてほしいと願ったのは俺なんだ…』

金髪金目の男。

不完全な、鬼とも呼べない化け物が、後ろから追いかけてくる。
気がついたことがある。
この不完全な化け物は、羽取が言った通り『吸血鬼』に似ている。他者の血液を渇望する、といった点で。
西欧の化け物に対して、日本特有の術が効きづらいということはある。だが、この化け物は決定的に何かがおかしい。鬼や化け物としての気配をまとっているが、意思が弱すぎる。
人間が鬼になる際は相当の感情のエネルギーが必要になる。概念歪曲場が脆弱なのも、この薄弱な意思のせいであろう。自分からなったのでないとすると

何者かに作られた---金髪金目の男によって、このようにされたのか?

この化け物は、鬼として不完全なだけに、泉谷の術が効きづらい。
カサカサに干からびようとする気味の悪い存在でありながら、呪術的にはまだヒトに近いのだ。

術が効かないのなら、肉体的に破壊するしかない。

思いあたり、渓の胸に不安がよぎった。
渓は呪術的な破壊力は強いが、肉体的には威力に欠ける。先ほどの警察官の打った拳銃に耐えたところからも、真木の肉体的耐久力は相当のものだろう。
護身刀を握り締める。勝てるかわからなくとも、一般人を鬼との戦いに巻き込むわけにはいかない。自分の選んだ道は、間違ってはいないはずだ。

屋上へ続く扉。
幸い閉まってはいない。出たからと言って、相手を捲けるわけではないが、ビルから突き落とすくらいはできる。

ビルの屋上は、月明かり照らされていた。
振り返ると自分の影と、真木の姿が見えた。月光に照らされ、その様子がよくわかる。
生きたまま、いや、死んでいるのか。朽木のうろのような、どろんとした眼。かろうじて人間とわかる顔、先端が爪状になった四肢に、はがれおちていく皮膚。
鎖をはずされた猛犬のように、真木が渓に飛びかかる。

「封っ!」

渓が護身刀を持った手を円形に一周させると、空中に水の円が飛び出す。
高レベルの鬼なら、拘束して一定時間封印できるものだ。だが、霊的な意味の薄い真木には効果が無いようだ。あっさりと水円を突破する。
渓はビルの端にいる。飛びかかってきた真木を受け流し、落とすつもりだ。身体能力的に人間と大差ないなら、受け流せる。

ただ

やはり、そううまくはいかないようだ。
真木の筋力、反射神経は人間のそれをはるかに超えていた。
受け流そうとした渓の腕をとっさにつかみ、逆に引き倒す。
馬乗りになる形で渓にのしかかり、先ほどの傷跡---首にかみついた。

「うわああああああああああああああぁああ!」

悲鳴を上げるのは、渓の番だった。
『Writted by ピコリ』