[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

First Impression

空の赤い夜だった。
ヒトに化け繁華街に紛れ込んだ獲物を追い、路地裏に入り込む。体力は大分削りとった。
袋小路に追い詰めてしまえば、あとは異界送りにするだけ。角を何回か曲がり──俺は立ち止まった。
青年が一人立っていた。手には護符とおぼしき紙の束。足許の絶命した鬼を見下ろして。
彼が振り向いた。金色の目が俺を捕える。
「──ああ」
得心したような声。
「手負いだったのか。道理であっさり死んだと思った」
最初は鬼かと思った。だが俺に向けられた視線に敵意はない。鬼人か?
「あんたの獲物だろ? トドメさしちゃってごめん」
「──いや」
俺自身は異界送りにするつもりだったが、あくまでそれは俺の心積もりであって彼のとった行動のほうが正しい。『オニ』は俺達の世界では公衆の敵(パブリック・エネミー)なのだから。
「弾が節約出来て助かった」
冗談まじりにそういうと、彼はおかしそうに笑った。
「──へえ」
俺のほうへ歩み寄り、手に持ったM82A1を興味深そうに眺める。
「『それ』じっくり見せてほしいところだけど、あまり時間ないんだ。帰らないと」
「そっか」
「あんた面白いからまた会えるといいな。じゃ」
そういうと青年は俺の隣を通り過ぎ──繁華街の灯りの中へ消えていった。
その背中を見送って──俺は『かつて鬼だったもの』のそばにひざまずく。
「──ごめんな」
死体から任務完了の印として指定されていたペンダントを取り外し、マガジンポーチにしまう。
周囲に結界を結ぶ。今すぐじゃなく、少し経ってから発見されるように。無縁仏として処理されるだろう。騒がれてもせいぜい新聞の片隅の数行を占拠するくらいだ。
立ちあがって──死体に背を向け、俺は帰途についた。

次の日。俺は私立桜華学園の学園長と対面していた。
「いや、ばたばたして申し訳ないね」
「いえ」
数か月前まで俺は海外で某国の外人部隊の一員として任務にあたっていた。任務の内容は契約の都合で割愛させてもらう。
日本へ戻ってくる予定は当分なかったのだが、どこで探し当てたもんだかエージェント経由で一通の手紙が届き──内容を読んで1日検討した結果、契約期間を全うした上でこうして帰ってくることとなった。手紙の内容は桜華学園への招聘。教師と兼任しつつ『鬼退治』を手伝えというものだ。

世界には『ヒトならざるモノ』が存在している。『オニ』。長年人間と戦ってきた存在。
長い間戦い続けて、人は鬼達の大半を異界に封じ込めることに成功した。この学園はその封印の地に建てられた巨大な結界だ。
しかし未だに鬼は結界を破ろうと日々あがいている。また、人間の世界に紛れ込んでいる鬼も少ないとはいえ存在する。
学園へ通う『祓手』──鬼を滅することができる存在──をサポートするのが学園内での俺の仕事ということだ。
今日は7月1日。全体朝礼でちょっと挨拶をしてくれとのことで朝早めに学園に呼ばれた。
「ああ、朝礼の前に職員に紹介したいので来てもらえますか」
「はい」
背の低い学園長につき従い、職員室のドアをくぐる。建てられて百数年経った学園の規格サイズはかなり小さい。
「イレギュラーな時期の赴任になりますが、今日から物理の担当として入ってもらう草野和秀先生です。──」
自分を紹介してくれる学園長の声を聞きながら職員室をぐるっと見渡す。
その中に鋭い視線を感じた。気付かない振りをして、反対側の壁に視線を固定する。
──彼だ。金色の目の、鬼人。もっとも今の目の色はやわらかい黒だったけれども。
「じゃ、席は──二宮先生の隣が空いてますね。割り当ての教室も隣だからちょうどいい。あとで簡単に案内してあげてください」
「──はい」
軽く会釈すると、彼は少し硬い声で答えた。ニノミヤ──か。
席に腰掛ける前に小声で挨拶する。
「よろしくお願いします」
「どうも」
愛想なく彼は返した。警戒されている。そりゃそうだ、俺だってこんな状況は有難いとは思えない。先だっての別れ際の一言だって、そうそう再会できる訳ないとでも思ってたからこそ出てきた言葉だろう。
静かに打合せが続き、『では朝礼に遅れないように』という一言を残し校長は去って行った。
「そーの、せんせ?」
「はい」
「行きましょか」
「え」
「『え』じゃないですよ。案内しますから、物理準備室に」
──ああ、そうだった。開いてた手帳を閉じ、胸ポケットにしまいこみ立ち上がる。
持参したアタッシェケースが持ち上げた途端がたんと音を立てた。彼はそれをちらっと見て──無言で先に歩き出した。

『Writted by るりのん』