相対正義論3
警視庁少年課
「肉団子事件?わっ、凄惨っす!」
そう声を立てたのは、浅黒い肌に黒い髪、黒い瞳をいかにも健康そうに輝やかせた青年だった。
「鈴木、この事件はお前にはまだ早い!」
そう言いきったのは無造作に濃い茶色の髪を伸ばし、無精ヒゲまではやした刑事だ。体躯は引き締まっており、顔に刻まれたシワ以外に年齢を感じさるところはない。
「城島さん、少年犯罪かじゃなかったっすか?どうしてこんな資料を?」
鈴木が、城嶋の持った資料を怪訝そうに見る。
「事件は2週間前、5月1日。おそらく深夜に起こっている。被害者は原型をとどめないほど強い打撃を受けている…殺人事件、一課の仕事っすよね。」
「まあな。だが俺が請け負っている家出少年の特徴と、ガイ者の特徴が一致しててな…まあぐっしゃぐしゃだから血液型と身長とか体格とか、その位だが。もしかしたら、と思って調べてたわけよ。」
鈴木の顔が曇る。
「人間業とは思えないっす。にしてもその事件の被害者がその家出少年だとしたら、結構な恨みを買ってるんじゃないっすか?」
鈴木が言うのは、家出少年が起こしたとされている事件のことだ。彼らは俗に言うストリートギャングの一員で、恐喝や暴行、窃盗などおおよそ人に憎まれるような人間であったということである。
「4月26日にも、確か路地裏で彼らの犯行とみられる殺傷事件があったじゃないっすか。」
4月26日未明 深夜バイトから帰宅途中の青年2人が襲われ、1人が死亡1人はいまだに意識不明の重体で病院にいる。死亡した青年真木 隼人(18)もまた素行不良少年グループの一員と見られ、犯行は彼を狙ったものと思われる。
「報復ってやつじゃないすかね。」
「さあな、昔の?と違って、いまどきのこういう連中にそう言う仁義は無いからねぇ。」
城島が渋い表情で煙草に火をつける。
「にしても、もう一人のガイ者は別に不良でもなんでもない普通の青年だったっていう話じゃないですか。巻き添えなんていい迷惑っす。」
正義感の強い鈴木らしい台詞だ。
「関係ないんだよ、あいつらにはな。まったく人間もお行儀悪くなったもんだ。」
城島が、ふーっと長い溜息をついた。
「まあ、今回ばかりはお行儀が悪いのは人間じゃないかもな。」
「え?」
「なんでもねぇよ。ところで鈴木、お前が受け持ってた事件の進捗状況はどうなんだい?」
「ああ、別件での高校生の家出捜索っす?まだ見つかってないっす。」
鈴木が請け負っているのは、2日前、家出した高校生の捜索である。
「気になるのは少年が失踪する前残した、殺されるっていう言葉っすかね。」
高校生の面影を残すような若い鈴木の笑顔。
城島は渋い表情で鈴木の笑顔を眺める。
紫煙が広がり、ゆっくりとと消えていった。
『Writted by ピコリ』