[Prologue]

[Main story]
・First Impression
・Second Finding
・Playing Tag1
・Playing Tag2
・Playing Tag3
・Playing Tag Epilogue
・a little plots 01
・a little plots 02
・a little plots 03
・Merciful Murder 01
・Merciful Murder 02
・Doppelganger
・姫と王 01

[番外編]
・MerryChristmas[BL]
・相対正義論New
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・First Impression Side-b
・ep01 [BL]
・ep01.Side-b [BL]
・分かたれた家系

First Impression Side-B

First Impression の遼視点

月の赤い夜。こんな夜には、鬼が出る。
譬え話ではない。だって、ここにいる。
「お願い、助けて! 追われてるの」
よっぽど切羽詰っているのか、若い女は全くの初対面にも関わらず俺の懐に飛び込んできた。
「どーして」
「どーしてって……だって、あなたも」
「『俺』も?」
「……あなたも、鬼でしょ?」
しがみつく身体をひきはがし、突き放す。短い悲鳴を上げて、女がアスファルトに倒れ込む。
「そうだよ、残念ながらね」
懐から護符を取り出し、喉の奥で、呪(まじない)を唱える。
「……どうして……?」
怯えた目をして、女が俺の顔を見つめる。
「ここにはお前らがいる場所はねぇんだよ」
「じゃ、せめて見逃して! あの人が待ってるの!」
「エサか」
「そんなんじゃない……!」
話が通じないことを悟ったのか、女は身を起こし俺の傍らを抜けようとする。
だが遅い。
「──縛」
女がへなへなと座り込む。
その足元には、五芒に光る陣。
「あんたにその気がなくても、のちのち迷惑を被るのはこっちなんだよ」
「……何を、言っているの……?」
涙に濡れた顔。ほんの少し、同情を感じる。
だが、躊躇するわけにいかない。
「剥」
俺は遠慮無くその呪を口にした。鬼は心に宿る。だから、その心を引き剥がす。
女の身体が崩れ落ちた。
魂の抜けているはずの瞳が、俺を見ている。
「恨むなよな」
勝手な言い草だと思いつつ、俺は踵を返す。
──足音が近づいてくる。
袋小路だ。入ってくる人間とすれ違わずに出て行く方法はない。
面倒だ……見つかったら有無を言わさず昏倒させるか。
そんなことを考えたが、現れた人影を見ておれはその考えを却下した。
現れたのは、俺よりよっぽどガタイのいい、長身の男だった。
その手には、アンチマテリアルライフル。
「──ああ」
そういえば、女は『追われてる』と言っていた。
「手負いだったのか。道理であっさり死んだと思った」
色素の薄い髪。月光に照らされた顔には──黒と青の石。
「あんたの獲物だろ? トドメさしちゃってごめん」
「──いや」
低い声が返事する。
「弾が節約出来て助かった」
「──へえ」
この非常事態にジョークで返してくる。彼は俺を問い詰めるつもりはないようだ。
どうやら話の分かる奴らしい。この、鬼特有の猫金目(キャッツアイ)も確認しているだろうに。
「──『それ』。じっくり見せてほしいところだけど、あまり時間ないんだ。帰らないと」
「そっか」
彼の傍らを抜ける。
「あんた面白いからまた会えるといいな。じゃ」
社交辞令。面倒だから、本当はもう会わないにこしたことはないけど。
繁華街に出る。街は無関心だ。猫金目をさらけ出しても、誰も声をかけてきはしない。むしろそれにすら気づかないのかもしれない。
だからこそ、俺は生きていかれる。
(……『遼』はまたぐじぐじ悩むんだろうけどな)
悩んでも仕方あるまいに。同じメンタリティを分け合っているのに、おかしなものだ。
ふっとさっきの男の顔を思い出す。まっすぐに俺の顔を見つめていた。
そういえば、この猫金目を見て怯まなかった人間は、初めてではないだろうか。
「もう一回、会えるかな」
面倒になるとは分かっているけど。
……もう一度会ってみたい、と。
赤い月の下で、俺は思った。

『Writted by るりのん』