相対正義論9
尾行
羽取先輩を式神阿に尾行させ、初めの2日間は何事もなく過ぎた。
3日目。阿が帰ってこない。
2件目の殺人事件が起こったことを知ったのは、その翌日だった。
警察から知ったわけではない、彼らが来るとしたら今夜だろう。渓は下校中、式神の気配の途絶えたところを探しているところだった。式神の気配が途切れたのは前の現場より北、羽取先輩がバイトをしていたという噂の猥雑な町の中だった。若者の町だが、行きかう人の中に学生の姿はあまりない。いや、学生なのだろうが皆思い思いの服装をしており、渓のように学生服をきちんと着ている学生があまりいない、といったほうが正しい。
現場はビルとビルの谷間。殺人事件が起こったことは現場で作業している人たちを見れば明らかだった。現場の人は渓の事を知らない。当然だ、鬼のことを秘密としている世間で、匂色機関であることが効力を発揮する相手は警察関係者の中でもごく一部にすぎない。
そこでは詳しいことは聞き出せない。家に帰って霧咲刑事に連絡をするか、連絡待ちだ。同一犯だとしたら、間をおかない殺人だ。
式神阿には、羽取先輩を尾行させていた。今日の羽取先輩も渓は屋上で見かけていただけだったが、特に怪しいところは見られなかった。渓程の年齢で渓のつくりだした式神を消滅させ、疲弊せずにいられるものはそうそういないだろう。もともと落ちついた雰囲気の人だし、深く知っているわけではないが、式神と戦ったと思われる傷や疲労は見受けられなかった。
だとすると誰が式神阿を消した?
羽取先輩が鬼であるという可能性を考えてみたが、すぐに取り消した。世代を経て血が薄まったならともかく、本人が鬼であればすぐにそれとわかる。それに羽取先輩が鬼であるならば4月の末日、彼が巻き込まれた事件で人間なんかにやられるはずがない。
なんにせよ羽取先輩の近くでことが起こっているのは確かだ。4月末日の事件から、調べてみる必要がありそうだ。
『Writted by ピコリ』